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法人成りのタイミング

「社長」になること

個人事業主として活動されている方にとって、法人成りは一種のステータスかもしれません。
色々なものを会社の経費で払う、などということを夢見ますが(前のコラムの通り、無駄な経費は色々なデメリットがあるのでやめましょう)、 焦って法人成りすることによって、かえってお金が減ってしまう結果になることもある点については留意が必要です。

法人成りすべきタイミングとは?

法人成りすべきタイミングとは、結論から言うと、経営者やビジネスの方針によって変わる、というのが回答になります。
しかしこの回答ではあまりにも大雑把な回答ですので、一つ、具体的な数値例で考えてみます。

法人成りによって手残りが減る場合


これは売上1,000万円、経費が418万円の事業を行っている事業主(1人会社)の手残りが、法人成りでどうなるかを概算で計算したものです。

まず、個人事業主として活動した場合(左列)、事業主は所得税・住民税を支払うことになります。
所得税・住民税計算に当たっては、青色申告特別控除に加え、自身で支払った国民健康保険料や国民年金保険料も所得控除になるため、これらを加味して税金を計算します。 また、個人事業主は事業税を支払う必要があるため、これについても加味します。(今回は税率5%で仮定)
その結果、個人事業主としての手残りは、粗利582万円-国保・年金保険料約70万円-3種の税金計約93万円から、約419万円と計算されます。

一方、法人成りした場合はどうでしょうか。社長に対する給与として、事業の粗利を目いっぱい、500万円支給した場合を想定します。(中央および右列)
法人成りの場合には、法人のもうけに対して法人税がかかるほか、社長への給与支払が経費扱いになります。
また、社長の所得税・住民税計算に当たっては、給与所得に対して「給与所得控除」と呼ばれる控除が使えるため、税金計算上有利な計算になるようになっています。 実際、社長の所得税・住民税の合計は約38万円(表14・15行目合計)と、かなり安くなっています。
ところが、表の中にある手残りは約387万円と、個人事業主の時よりも少なくなる結果となりました。

税金と同じくらい社会保険の負担が大きい

実は社会保険料の負担増が、税金の負担軽減以上のインパクトをもたらしているのです。
法人の場合は、社員が1名であっても社会保険への加入が必須となるため、会社は従業員数に応じて社会保険料を負担することになります。
(個人事業主の場合は一定の場合を除いて社会保険への加入は任意のため、事業主の個人分のみ負担。)
社会保険料の法人側負担は会社状況によって変わりますが、一般的には概ね給与の15%程度とされています。 そのため、法人成りの場合には事業主の社会保険料を法人が負担することになります。(表4行目)
また、法人と従業員が負担を折半するため、従業員(=事業主)も同額の社会保険料を支払うことになります。(表9行目)
この結果、税金負担の軽減を上回る社会保険料負担の増加となり、手残りが減少する結果となったのです。

その他の部分にも留意

その他、法人の税金について、赤字・黒字にかかわらず毎年一定額が発生する部分がある(均等割部分・表15行目)ことであったり、 法人の登記管理や社会保険手続の増加など、法人管理コストが増える点にも留意すべきでしょう。
一定の規模に成長するまで、あえて個人事業主として活動するというのも十分合理的な判断と思われます。

おわりに

法人成りは個人事業主にとって一つのゴールであるといえますが、計算なしに法人成りすることによってかえって余計なコストを支払うことになる場合もあります。 その代表例が社会保険料の負担増加影響です。
もちろん、社会保険料の支払額増加は、いざという時に受けられる保険サービスの充実にもつながるので全くの無駄金というわけではないですが、 安定して高収益をあげる段階ではない発展途上の事業主にとっては負担が大きすぎるというのが正直なところでしょう。
「社会的信用が絶対に必要なので法人を設立する」といったような理由であれば別ですが、個人事業主であっても十分活躍できる環境であれば、 あえて個人事業主のまま活動することも検討してみてはいかがでしょうか。

また上記の数値例の通り、あくまでも重要なのは利益ベースで考えることです。売上がいくら多くても、利益が少ないと手残りに悪影響を及ぼすので、 利益的に余裕が出始めてから法人成りを検討することをおすすめします。
検討の際には事業者の状況によって考慮すべきポイントが変わるので、必ず顧問税理士とシミュレーションしましょう。


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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