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節税策1_小規模企業共済の活用

定番の節税策

世の中の節税本などで見かけたことのある方もいらっしゃるかと思いますが、「小規模企業共済」は事業主にとって定番の節税策であるといえます。
小規模企業共済は、現時点で存在する数少ない本当の「節税策」(=税金の支払い額を減らす)であるため、積極的に取り入れたい対策です。
あらためて、小規模企業共済のメリットや活用方法についてまとめてみます。

小規模企業共済の概要

「小規模企業共済」は国の期間である中小機構が運営している、小規模企業の経営者・役員・個人事業主のための退職金制度です。
毎月、あらかじめ決めた掛け金を支払い、特定の事項(廃業や契約者の死亡など)が発生したタイミングで積み立てた掛け金とその利息分を受け取ります。 本来の目的が「経営者の退職金」であるので、掛け金支払から受取までに長い時間がかかりますが、(単なる節税策以上に)将来の備えとしても有効です。

特徴とメリットは?

月々の掛け金は1,000円から70,000円まで500円単位で自由に設定可能。加入後も任意で増額・減額出来ることからかなり使いやすい制度です。
そしてこの「小規模企業共済」、上記の使いやすさに以下の各メリットが相まって、強烈な節税効果や使い勝手の良さを生みます。

・掛け金全額が所得控除に

掛け金は経営者・事業主が個人(ポケットマネー)で支払うことになるのですが、その支払った金額が全額所得控除として算入されます。
確定申告では、医療費控除や社会保険料控除、寄附金控除(ふるさと納税)を使って所得税の金額を下げることがよくありますが、 それらと同様に、この掛け金も全額控除項目として適用することができるようになります。(小規模企業共済等掛金控除)

仮に満額の月7万円で12か月の掛け金を支払った場合には年間掛金総額が84万円になり、この分丸々所得を抑えることが可能となります。
例えば、所得税率が33%であれば28万円の節税、40%であれば33万円の節税です。(住民税も同じ仕組みのため、約8万円節税されます。)

・共済金(受取積立金)が退職所得扱いに

そして、小規模企業共済の節税効果をさらに効果的なものにしているのがこのルールです。
上記の通り、廃業等によって契約が終了した場合、「経営者の退職金」として今まで積み立てた分を受け取るわけですが、 この受け取った積立金(共済金と呼ばれます)が所得税法上の退職所得扱いになるのです。

この「退職所得扱い」というのが重要なポイントで、所得税法上の退職所得は通常の所得と比べて税金上の優遇を受けられるようになっています。
具体的には、退職所得は「(退職金 - 退職所得控除)× 1/2」で計算され、退職所得控除は1年勤務するごとに40万円の枠が与えられ、 20年超の勤務で1年40万円から70万円に枠が増額されます。つまり退職所得控除という税金計算上有利な枠が与えられるうえ、その後1/2計算されるのです。

例えば、20年事業を営み廃業した個人事業主の方が、小規模企業共済の共済金1,000万円を受け取る場合、確定申告上の所得は「(1,000-800)×1/2=100万円」になります。 何もしないで1,000万円を受け取れば所得が1,000万円となりますが、小規模企業共済を噛ませた場合には100万円まで圧縮されます。 もちろん、長く事業をやればそれだけ退職所得控除の枠も増え、より有利な計算結果が得られます。
この「退職所得」扱いというのが強烈な節税効果を生み出しています。

・貸付制度があるため、キャッシュが固定されない

節税効果が凄すぎるためあまり語られないポイントですが、実は小規模企業共済には貸付制度があります。
掛け金の7~9割の範囲内で借入をすることができる仕組みとなっており、利率も2022年現在で年1.5%とそこまで高くない利率となっています。
経費をかけた後、長い期間資金を塩漬けすることになる他の節税策と違い、一時的ですが困ったときにキャッシュを取り戻す方法があるため、 「保険」としての効果もある、使い勝手が良い制度になっています。

デメリットにも注意

いいこと尽くしの小規模企業共済ですが、もちろんデメリットもあります。代表的なものを確認しましょう。

・早期に任意解約した場合に元本割れする

代表的なデメリットが元本割れリスクです。240か月(20年)未満で任意解約(廃業などによらない自主的な解約)した場合に元本割れリスクがあります。
ただしこれはあくまでも、「短期」かつ「任意解約」の場合です。例えば、短期であっても廃業による解約であれば元本分は戻ってくる仕組みとなっているので、 そこまで気にするほどのデメリットでないと考えられます。掛け金の負担が重いという場合には、掛け金を下げて契約そのものは継続し、元本割れを回避する、という方法もあります。

・掛け金を減額すると利息はもらえない

当初掛金から減額された部分については運用がなされず、利息がもらえない仕組みとなっています。
ただし、任意解約しない限りは元本割れをするという話でもないので、こちらもそこまでのデメリットではないかと考えられます。

・加入時に資格制限がある

最大のデメリットがこれです。小売・サービス業の事業主については従業員数が5名以下の事業主、建設・製造・運輸・不動産業などの事業主は従業員数が20名以下の事業主 にしか加入資格が与えられない制度となっています。つまり、入口の段階でミスをすると加入資格がなくなってしまうのです。
なお、規模による加入資格は加入時にのみ問われるので、加入後に人員が大きく増加した場合も継続加入できます。

おわりに

デメリットもいくつか紹介しましたが、それを補って余りあるメリットが小規模企業共済にはあるので、積極的に活用すべき手法です。
また、小規模企業共済は活用方法が自由な反面、月々掛け金の資金繰りやいつまでに共済に加入するかといった、綿密な計画が求められます。
顧問税理士とよく相談の上、効果的に利用していきたいところです。


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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