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節税策2_経営セーフティ共済の活用

小規模企業共済と並ぶ有名節税策 ただし使い方が難しい

節税策を考えるうえで「小規模企業共済」と並んで言及されることのある「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」。
経営セーフティ共済という用語だけ見ると、小規模企業共済と同じような使い勝手の良い節税策かと思われますが、実際の使い勝手は大きく異なり、 フル活用するには慎重な検討が必要な手段となっています。
経営セーフティ共済のメリットや活用方法についてまとめてみます。

経営セーフティ共済の概要

「経営セーフティ共済」は国の期間である中小機構が運営している、取引先の倒産に備えたセーフティネット制度です。
毎月、あらかじめ決めた掛け金を支払い、取引先事業者が倒産し売掛金などが回収不能となったタイミングで無利子・無担保での借入が可能となります。(回収不能となった額、最大で掛け金の10倍まで)
あくまでも被害額相当の借入が可能となるのであり、保険金のように損失を補填してもらえる制度ではない点に留意が必要です。

特徴とメリットは?

月々の掛け金は5,000円から200,000円まで5,000円単位で自由に設定可能ですが、一度決めた掛金から減額方向への変更は特定の事情がない限り出来ません。(増額は可能) 「小規模企業共済」と比べて金額単位の幅が広く、特に減額方向への変更も自由ではないことから注意が必要です。
経営セーフティ共済のメリットは以下の通りです。

・掛け金全額が経費に

小規模企業共済同様、掛け金は支払った金額が全額経費計上となります。(個人:事業所得経費、法人:法人経費)
共済掛け金は小規模企業共済とは異なり、あくまでも経費計上という形で節税効果を生みます。
仮に満額の月20万円で12か月の掛け金を支払った場合には年間掛金総額が240万円になり、この分丸々所得を抑えることが可能となります。

例えば、所得税率が33%であれば80万円の節税、40%であれば96万円の節税です。(住民税も同じ仕組みのため、約24万円節税されます。)
ただし、拠出可能掛け金は最大800万円までなので、月20万円で掛け続けると3年ちょっとで打ち止めとなる点に注意が必要です。

・経営セーフティ共済にも貸付制度がある

小規模企業共済同様、経営セーフティ共済にも貸付制度があります。
掛け金の7~9割の範囲内で借入をすることができる仕組みとなっており、利率も2022年現在で年0.9%とそこまで高くない利率となっています。
経営セーフティ共済もキャッシュの固定化を防げる、という点ではこちらも使い勝手の良い制度となっています。

デメリットが結構ある

全額経費計上可能な経営セーフティ共済ですが、以下のデメリットもあるため、小規模企業共済に比べて使いどころが難しい制度となっています。
共済加入時に「終わらせ方」をきちんと考えないと、何もしなかった時よりも損する可能性すら出てくるので、事前の計画が必須です。

・早期に任意解約した場合に元本割れする

小規模企業共済同様、代表的なデメリットが元本割れリスクです。40か月未満で任意解約(廃業などによらない自主的な解約)した場合に元本割れリスクがあります。
節税策として取り組む場合、比較的業績などに余裕があると考えられることから任意解約に至る可能性は低いかもしれませんが、掛け金減額方向への変更が制限されているため、 きちんと支払い続けることができる金額を設定することがポイントです。

・解約時に受け取るお金は益金になる

40か月経過後には任意解約時でも元本割れなく掛け金を回収できるようになりますが、その際に受け取るお金(解約手当金)は単なる益金(個人事業主の場合は事業所得)でカウントされます。
つまり、単なる課税の繰り延べであり、これだけだと税金の減額にはならないのです。(対照的に、小規模企業共済では回収した掛金が退職所得扱いになるので、税金計算上かなり有利な取り扱いを受けます。)
ここが、小規模企業共済と一番異なる点であり、節税策としての使い方を難しくしている点でもあるのです。

・実は実質的な利息がある

概要に「無利子・無担保での借入が可能」と書きましたが、実は「借入れ後は、共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除される」というルールもあります。 つまり、無利子・無担保借入を実施すると、実質的には借入の約10%程度の支払いが発生してしまうのです。
そのため、実際に経営セーフティ共済の無利子・無担保借入を実施する際には、掛け金残高を減らしてでも資金の手当てをした方が良いか否かを慎重に検討する必要があります。

おわりに

小規模企業共済と比較して、メリット面よりデメリット面が大きい経営セーフティ共済。
デメリット面が結構大きいため、考えなしにお金をかけるとかえって損失を発生させるため、加入前からの綿密な計画が求められます。
特に「出口部分」となる掛け金の回収(解約手当金)については、赤字が見込まれる期に掛け金を回収して、赤字と掛け金の回収をぶつけて利益計上額を減らすことがセオリーとなります。

よくある手法の一つとしては、社長の退職時に退職金を多く支払いつつ(一時的に赤字を出しつつ)、解約手当金を回収する方法が挙げられます。 このやり方であれば、疑似的に退職所得への切り替えをしたような効果を生むことができます。 あるいは、新規ビジネスの立ち上げなどで大幅な赤字が見込まれる、といった場面も、掛け金の取り崩しチャンスになります。

いずれの場合も、中長期的な視点のもとに計画的に取り組むべき対策であるため、検討段階から顧問税理士とよく相談の上、うまく活用していきたいものです。


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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