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節税策3_役員社宅による節税

手残りへのインパクト大な節税

法人成りした経営者にとって、身の回りの支出を法人の経費にできればどんなにいいことかと考えますが、実際問題、なかなか都合よく法人の経費に身の回りの支出を当て込むのは難しいもの。
そんな中で、プライベート支出のうち結構な割合を占める自宅賃料を真っ当に会社側に寄せることができたら大変なインパクトがあります。
アイデアだけはなんとなく聞いたことがある、という方も少なくないと思われる、役員社宅節税策についてまとめてみます。

そもそも何が問題になるのか

そもそも、役員に社宅を割り当てる際に、税務上どのような問題が生じるのでしょうか?
具体的な税法を知らなくても、公私混同のような経費が税務上認められないのは直感的に理解できると思います。
実際、問題になるポイントもその部分で、役員に対して無償(あるいは無償に近しいくらい安く)社宅を提供するということが、役員に対する利益の供与に当たるのではないか?という点が問題になってきます。

そこで、役員にある程度自腹を切ってもらえれば、社宅の提供が許されるのではないか? その場合、どこまで自分で負担すれば、税務上問題にならないのか?ということがカギになってきます。

社宅節税策の元ネタ

社宅節税策の元ネタとなっているのは、所得税基本通達(所得税法ではないが、税務署職員などが実務上の指針として適用しているルール)の36-40です。 そこでは、この処理が許されるための「自己負担額」について、以下の通りであると書いてあります。なお計算方法は、自社所有社宅の場合と借り上げ社宅の場合で分かれています。(以下、国税庁のHPより 一部かっこ書き加筆)

【賃貸料相当額の算定】

・物件が自社所有の場合、次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額(=処理が認められるための自己負担額)になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
  ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

・物件が借り上げ社宅の場合、物件が自社所有のときの計算額(=イ+ロの12分の1) または 会社が家主(大家)に支払う金額の50%のいずれか多い金額が賃貸料相当額(=処理が認められるための自己負担額)になります。

通常、社宅は法人が第三者の大家から借りてくる、借り上げ社宅の場合が多いかと思いますが、その場合は下段のルールが適用となります。
借り上げ社宅の場合、大抵、賃料の50%の方が大きくなるので、役員個人が賃料の50%を負担することで役員社宅の処理を適正化しています。
「家賃の50%を負担すれば社宅として住める」という節税策を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、元ネタはこの通達になります。

「通達」には続きがある

実は、ここまでの説明は調べればわりとすぐに出てきます。問題はここからです。
上記の所得税基本通達36-40ですが、原文を読むとこんなことが書いてあります。(条文が長いので一部省略)

【36-40 役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算】

36-40 使用者がその役員に対して貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額は、次に掲げる算式により計算した金額とする。(注:先の計算式です)
ただし、36-41に定める住宅等については、この限りでない。

なんなんだこの36-41というのは……
ということで、36-41も見てみましょう。(分かりやすくするため一部記載変えています)

【36-41 小規模住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算】

36-40の住宅等のうち、その貸与した家屋の床面積(略)が132平方メ-トル(木造家屋以外の家屋については99平方メ-トル)以下であるものに係る通常の賃貸料の額は、36-40にかかわらず、 次の(1)から(3)までの合計額とする。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

つまり、木造132平方メートル(それ以外99平方メートル)以内の床面積の物件であれば、先ほどの36-40の制限を受けず、「固定資産税の課税標準額」からで計算された金額を役員が負担すればOKということになるのです。
ちょっと広い程度の社宅であれば、こちらのルールを適用することで自己負担額をさらに下げることが可能です。
この「固定資産税の課税標準額」は、通常、一般の家賃相場よりも低額なため、実際にこのルールに従って計算すると家賃の50%から20~30%の自己負担まで抑えることが可能なケースが多いようです。

ではこの「固定資産税の課税標準額」、どうやって調べるのか?
自宅や会社建物などの所有者として固定資産税を支払ったことのある方であればご存知かもしれませんが、毎年市町村から送られて来る「 固定資産税・都市計画税 課税明細書 」の中に記載があります。
……そうすると、借り上げ社宅の場合は見れないのか?という話になりますが、以下の2パターンのどちらかで解決できます。

①大家、不動産業者に照会する
②市町村の資産税担当窓口に行き「固定資産課税台帳の閲覧」を申請する

借り上げ社宅の大家や不動産業者が自身の知り合いであれば①の方法で解消できるかもしれませんが、なかなかそのようなパターンはなく、取り合ってもらえないことも多いかと思いますので、 ②の自力で解決するのが現実的な方法かと思います。
所有者でなくても、契約上の賃借人であれば固定資産課税台帳の閲覧は可能ですので、契約書その他必要書類を持って市町村の資産税担当窓口に行きましょう。この制度を使えば台帳の内容証明書の交付も受けられます。

実際にやってみた

……ここまで調べたならば、自分でもやってみたくなるもの。
ということで、自宅マンションの賃貸借契約書を持って、所轄の都税事務所に突撃してきました。私の自宅は個人契約のマンションですが、閲覧制度を使えば金額情報自体はとれるはず。ワクワクしながら都税事務所に向かいました。

で、結果はというと、まさかの開示不可。大変ショッキングな結末でしたが、これ、きちんと理由があります。

実は東京都の場合、転借人の開示申請には、賃貸借契約書と転貸借契約書の両方が必要なのです。分かりやすく図で示すと、

私の自宅マンションは、物件所有者である大家と私の直接契約ではなく、間に管理会社を挟んでいる形態の物件でした。

しかも、ただ管理会社に委託するだけでなく、大家⇔管理会社間で一度賃貸借契約を結び、管理会社が各部屋の入居者を募集する形態だったのです。(いわゆるサブリース)
ですので、私が持っていた賃貸借契約書は転貸人である管理会社との契約書(②)なのですが、この台帳の閲覧申請には、①の大本の賃貸借契約書も必要なのです。 都税事務所が厳しめなのかな?とも思いましたが、いくつかの市町村の手続書類を確認する限り、同様のルールになっていました。
賃借人と転借人は法的立場が違うということなのでしょう、今回はあえなく撃沈して都税事務所を後にしました。

おわりに

最後の項、転借人の場合は固定資産課税台帳の数値を調べることが事実上困難になってしまうので、この場合は最初の議論に戻ります。
つまり、36-40にあった「通常家賃の50%」ルールを適用すれば、ほとんどの場合、自己負担が多めになるよう支払っていることになるはずなので、税務調査で指摘されることもほとんどないかと思われます。 半分でも経費を寄せられるだけマシ、と思ってこちらのルールを適用しましょう。

どうしても賃料負担を限界まで減らしたい場合には、固定資産課税台帳の情報が取れるように、物件探しの時点から手当をしておくことが必要になりそうです。
(仲の良い大家さんから借りる、協力的な不動産業者に相談する、サブリース物件ではなく所有者と直接契約を結べる物件を探す……)


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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