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節税策3'_役員社宅は所有?賃貸?

どうしても役員社宅+固定資産税評価額の計算式を適用したい

節税策3「役員社宅による節税」の通り、社宅家賃の自己負担を限界までそぎ落としたい場合には、固定資産税評価額を確認する必要があります。
しかし、物件によっては固定資産税評価額をすんなり特定することが難しい場合もある。であればいっそのこと、会社で社宅を買ってしまって、そこに住んでしまえばいいんじゃないか?
究極の社宅節税、その効果についてまとめてみました。

社宅を会社持ちにするメリット

会社が住宅を社宅として買うことは問題になりません。きちんと会社のお金で支払い、固定資産計上をし、減価償却すればいいだけの話です。
ということで、以下のようなメリットがあります。

減価償却費は法人の経費になる

自社の固定資産なので、建物部分については他の償却資産と同様に、減価償却計算の対象となります。
当然、計上された減価償却費は全額法人経費となります。

社宅の維持管理にかかる費用も法人の経費になる

購入時の登記費用や修繕費、固定資産税や火災保険料も全額法人経費です。何せ法人の固定資産ですので。
仮に銀行などから購入資金の借入が出来た場合にはその利息も全額法人経費です。

固定資産税評価額が確実にわかる

忘れてはいけない、一番重要なポイント。持ち主が自社ですので、固定資産税評価額資料が確実に届きます。

【注意】消費税の還付は受けられない

不動産+消費税の節税策を調べたことのある方は、不動産購入時に支払った消費税を取り戻すことができる手法を聞いたことがあるかもしれません。
その通り、かつては消費税のルールの隙間を縫って、不動産購入時に支払った消費税を取り戻すことができたのですが、税制改正によって、2020年10月以降この手法は封じられてしまいました。
余りにもルールギリギリのやり方が多かったようで、当局も本腰を入れ、今では根本的に隙間を塞ぐような税制改正がなされています。

メリットだらけ、かと思いきや

固定資産税評価額の情報だけでなく、家にかかる様々な費用を会社持ちにできるとは、かなりお得なやり方なのでは?と思いきや、やはりそんなに甘くはないのが現実です。 他の節税策と同様、経費になるかならないか、だけでなく初めから終わりまで、の視点が重要になってきます。
今回の節税策については、デメリットも相当大きいものになっています。

住宅ローン控除が受けられない

個人で取得したわけではないので、当然、住宅ローン控除を受けることはできません。
10年間で最大400万円の税額控除、つまり税金の直接減額ですので、一番効果の高い節税策ですが、これをみすみす捨てることになります。

住宅ローンが受けられない

個人で取得したわけではないので、当然、住宅ローンも受けることはできません。
特に最近の個人向け住宅ローンは35年間で固定低金利ですから、法人で購入資金調達ができた場合よりも遥かに低い金利負担で資金手当てをすることができます。

ということで、住宅ローンと住宅ローン控除を捨ててまで法人持ちにすることが選択肢になりうる会社は、よっぽど法人側に余剰資金がたまっている会社だけということになります。
かつ、その余剰資金を事業投資に回す気が全くない、といった条件も付くでしょう。家を買えるくらいの手元資金があるのであれば、普通その資金を、事業投資に回した方が更なる稼ぎにつながりますから……

居住用資産譲渡の3,000万円特例が受けられない

さらに言うと、個人所有の住宅の場合、譲渡時に売却益が出ても最大3,000万円まで譲渡所得を減らすことが出来る特例があるのですが、それも受けることができません。 物件が値上がって譲渡益が3,000万円出た場合、法人では全額利益扱いですが、この特例を使えば個人所得税の計算上、利益ゼロになります。
この場合、法人税率が30%とすると、900万円の税金差が発生します。

おわりに

メリットを帳消しにするレベルでデメリットも発生する社宅の自社購入。
この作戦がうまくハマる可能性があるのは、①そもそも金余りで自社のキャッシュのみで購入できる、②金余りキャッシュを更なる事業投資に投入する気がない、③いざ社宅を手放した際に、譲渡益が発生しそうにない(明らかに不動産価格が下落局面) といった条件をすべて満たす場合でしょうか。③に至っては、実際に物件を手放す10年後20年後の不動産市況なんて分からないのでほぼギャンブルでしょう。大抵の経営者の方は、うまく条件の整った借り上げ社宅を地道に探しに行く方が効果が高そうです。
それでもどうしても、という場合には、購入の前に顧問税理士と良く打ち合わせて、念入りにシミュレーションしましょう。


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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