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仮想通貨投資と税金

仮想通貨による投資について税金の面から考える

ここ数年、知名度も上がってきて身近なものになってきた仮想通貨。「億り人」などという用語も流行語として挙がるくらい、爆発力のある投資先として多くの人の注目を集めていますが、 税金面から考えてみるとどうなのでしょうか?
あらためて調べてみると、「億り人」たちの苦悩が聞こえてきそうな実態が浮かんできました。

損益計上となるタイミングは色々ある

まず、損益計上すべきタイミングを見てみましょう。おそらく大半の方が自分の資産運用のために保有していると思われますので、所得税法上のルールに沿って見てみます。

仮想通貨を売却する

これは普通の株式投資などと同じです。売却した時の収入と対応する取得時支払額の差額が損益となります。

仮想通貨で商品を購入する

通販などで仮想通貨を使って商品を買った場合、商品の代金と支払った時の仮想通貨の時価の差額が損益となります。
たとえば、50,000円の商品を買う際に、0.01BTC(決済時48,000円相当だったとする)を支払ったとすると、50,000円-48,000円の2,000円が利益になります。

他の仮想通貨に交換する

ある仮想通貨から他の仮想通貨に交換する際も損益が発生します。 たとえば0.01BTC(48,000円相当)と0.2ETH(70,000円相当)を交換した際は、48,000円で70,000円の物を入手したことになるので、利益が22,000円となります。

マイニングで入手する

マイニングで入手した場合は、入手した通貨の時価から必要経費を差し引いた部分が利益になります。

上記がよくある仮想通貨の取引パターンかと思いますが、それぞれについて損益が計上されます。ご覧の通り、色々なタイミングで損益が確定することになりますので、 仮想通貨を塩漬けていない限り、確定申告が必要になりそうです。

所得税法上の取り扱いは?

仮想通貨で発生した損益は、特殊な場合を除き「雑所得」扱いになります。ですので、以下のような取り扱いになります。

累進課税の対象となる

「雑所得」ですので、累進課税制度の対象となります。累進課税制度のもとでは最大税率が45%、住民税の10%を合わせると最大で55%の税金がかけられることになります。

【所得税の速算表(国税庁HPより)】

ここで注意すべきは、「課税される所得金額」は仮想通貨分の所得だけではなく、事業所得や不動産所得、給与所得なども含まれるということです。数値例で見てみましょう。
(仮定)
事業所得500万円の経営者が、①仮想通貨で100万円の儲けを得た場合と②仮想通貨投資がない場合で比較
①:所得は500万円+100万円の600万円とカウントされ、600万円に対して速算表を適用します。結果として、税額は772,500円です。
②:所得は500万円でそれ以外に別の所得はないので、500万円に対して速算表を適用します。結果として、税額は572,500円です。

つまり、事業所得が500万円ある経営者の方が仮想通貨で100万円の利益を上げた場合、100万円x5%の5万円が負担税額になるのではなく、実質的には所得増加分100万円x20%の20万円が負担税額になるわけです。
ということで、ベースとなる事業収入や不動産収入等が多くある経営者の方が仮想通貨取引を実施すると、スタートラインとなる税率が高い状態で始まります。 事業所得が4,000万円以上ある経営者の方が仮想通貨で利益が出た場合、税率はいきなり45%でスタート(住民税10%を加味すると55%)になります。

損益通算ができない

先ほどからのとおり、仮想通貨損益は「雑所得」ですので、所得税法上の損益通算はできません。
例えば、仮想通貨で損した分と本業の事業収入を相殺して税負担を下げる、といったことはできないため、損失が出た場合の救済措置がありません。

損失の繰越もできない

仮想通貨で発生した損失については、次年度への繰越もできません。株式投資や先物・FXで認められている3年の損失繰越制度は、国の政策上特別に認められた制度 (租税特別措置法という法律で、所得税法とは別に定められています)にすぎず、仮想通貨関連で同様の制度は今のところ制定されていません。

税負担の観点から見ると不利な面が多い

仮想通貨というものに対してルールが追いついていない(あるいは当局が慎重な姿勢)せいか、税制度面から見たとき、仮想通貨は資産運用先としてはかなり不利だというのが個人的な感想です。 株式投資やFXであれば分離課税適用でどれだけ儲けても20.315%(所得税+住民税)で固定ですし、損失の3年繰越制度も設けられているので、損失が出た場合も活用方法が残されています。 (というよりも、株式やFXが制度的に恵まれすぎているのかもしれません。)

いずれさらに活況になる仮想通貨投資を今のうちから勉強しておくとか、将来ドルや円に並ぶ決済手段になると思うので今のうちから触っておきたいなどの別の目的があれば話は違いますが、 よほどのこだわりや目的がなければ、投資先としては株式やFXに取り組むことを個人的にはお勧めします。
もっとも、いっぱい儲かるのであれば、正直、株でもFXでも仮想通貨でも何でもいいのですが……


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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