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損益計算書は前年同期比で比較する

PL分析の基本は時系列・前年同期比分析

経営者の方が良く目にする決算書、特に損益計算書(以下、PL)については、会社・事業の成績表と言っても過言ではないため、何かと注目されるデータであるといえます。
では、PLは具体的にどのように分析すればよいのでしょうか?効果的な分析方法は会社によってまちまちですが、時系列・前年同期比で見ていくのが基本です。 その理由と、実際の数値例を見ていきましょう。今回は一般に公開されている、上場企業の数値で見ていきます。

時系列分析が必要な理由

ここでは「時系列分析」を、「1事業期間を特定の期間で細分化し、細分化した単位の推移を確認・比較していく」ことを意味している、としてください。 例えば、1年を第一四半期・第二四半期……と区切ったり、1月・2月……と区切るイメージです。
なぜこの単位を用いるかというと、PL要素については業種によって、季節性があることが少なくないからです。今回はこれをいくつかの具体例でみていきます。

おもちゃ業界の季節性

例えば、おもちゃ業界では通常10月~12月で売上がピークを迎える会社が多くなっています。これはこの期間で、おもちゃの需要が一気に増えるためです。 ご想像の通り「クリスマス商戦」の影響です。分かりやすい一例として「任天堂」の売上推移があります。


三か月ごとの売上推移をグラフ化すると分りやすいのですが、1年に1回、明らかに売上が伸びている部分がわかります。10月~12月までの第3四半期期間は毎年売上が急増しており、 例年、第3四半期の三か月間売上はそれ以外の四半期売上の2倍程度まで達しています。
このような状況で、例えば、「2021年12月末の第3四半期は、2021年9月末の第2四半期より売上が倍増している」と分析しても意味がないのです。 会社の成長を確認したいときに2021年12月末の第3四半期の売上と比べるべきは、2020年12月末の第3四半期の売上でしょう。
この一例で明らかなように、会社が本当に力をつけているかを確認する際は、時系列で数値を拾い、前年同期比で確認するのが基本になります。

またこの際、対象期間が1年同士になる(2022年3月期の1年間と2021年3月期の1年間を比較する)こともお勧めできません。 あまりに対象期間が長すぎると、プラスの影響とマイナスの影響が打ち消し合ってしまい、正確な動向が把握できなくなるからです。例えば、以下のようなケースだとどのようになるでしょう? 過去、2019年10月に発生した消費税増税の時を想定して考えてみます。(3月決算の家電量販店の会社と仮定します)

①消費税増税のため、2019年4月から9月にかけて家電買い替えの駆け込み需要が発生。半年間の売上が前年同期比で1億円増加した。
②駆け込み需要の反動減で、2019年10月~12月の3か月間売上が前年同期比で2,500万円減少した。
③ライバルの家電量販店に売上シェアを奪われて2020年1月~3月の3か月間売上が前年同期比で2,500万円減少した。

この状況で、2019年3月期と2020年3月期を細分化せずに1年単位で前年同期比してしまうと、「2020年3月期の売上は5,000万円増加した。消費税増税前の買い替え需要が増加要因だ。」と分析する恐れがあります。
あまりに比較対象期間が長いと、③のような、本当は察知しておくべきビジネス上の変化を見逃すリスクが出てきてしまうのです。
かといって通常時にそこまで季節性変動のない会社で1か月単位の分析を実施するのは手間がかかりすぎて、それはそれで費用対効果が悪くなります。 ビジネス上のヒントを得るためには、まずは3か月単位をベース単位にしてみてはいかがでしょうか。

関連業界にも影響する

先ほどは任天堂の例を出しましたが、関連業界にも同様の季節性はあります。
おもちゃの卸売を主事業にしている「ハピネット」という会社がありますが、こちらも同様の売上推移をしています。


任天堂と同様に毎年12月末の第3四半期が売上ピークとなっています。理由も同様です。
公開情報がないのでここから先は想像の話ですが、2社の月次売上高が取れるのであれば、任天堂の方がハピネットよりも売上高のピーク月が早いのではないかと想像しています。 商流の関係で、メーカー→卸売→小売と流れて行く以上、売上タイミングは卸売よりもメーカー側がより早く計上されることになると考えられるので、 例えばハピネットの売上ピークが11月であれば任天堂の売上ピークは10月、などといった感じで、メーカー側の売上ピークがより早くなると推測されます。 月次データがあれば、さらに細かく数値の因果関係を分析することが可能になります。

まだまだあるぞ季節性変動

季節性要因で数値が変わるケースはまだまだあります。次は「京都ホテル」の例(コロナ禍前の売上推移)です。

毎年、6月まで売上が上昇し、9月に売上が一番低く、12月にピークを迎え、3月は売上が落ち着く。想像つきますか?
ホテル名で分かった方も多いかもしれませんが、京都観光のハイシーズンに売上が大幅に増加しています。桜と紅葉ですね。逆に、8月のお盆シーズンは閑散期となっています。(京都の夏、暑いですよね)
次も観光関連の分かりやすい数値です。


こちらもすぐにわかった方が多いでしょう、「日本スキー場開発」の売上推移です。
12月からハイシーズンになるスキー場の売上が数値にそのまま表れています。
もう一つこのグラフから分かることは、スキーシーズン後の夏・秋の売上が課題になっているという点です。ビジネスの性質上、なんとなくイメージできそうなことですが、 グラフ化することで強みや弱みをはっきりと認識できるようになるというのも時系列比較の大切なポイントです。
(余談ですが、日本スキー場開発では、山間の地形を活かして、昨今のキャンプブームやアクティビティブームを取り込むような施策を打っているとのことです。)


さて、こちらはどうでしょうか?「三菱総合研究所」の売上推移です。三菱総合研究所は9月決算の会社であるため、第2四半期に売上が集中するような売上変動となっています。
3月に売上偏重となるのは、おそらく、「官公庁など発注側の予算消化」が要因かと考えられます。年度予算消化のために、3月までにシステムの納品を頼む会社は多く、 三菱総研に限らずシステム関係の会社は3月の売上が伸びることが業種的によく見られます。特に官公庁向けを得意としている三菱総研ではその傾向がより強くなると推測されます。 これも一種の季節性変動ですね。

時系列・前年同期比比較で大事なこと

時系列・前年同期比で比較する理由は先に述べたように、
・季節性変動を加味した分析を実施する必要がある(分析対象期間を間違えると、数値の変動を正確にとらえられなくなる)
・変動を可視化して、強みと弱みのイメージをきちんと把握する(思っていたより業績推移が良い、悪い など)
にありますが、それと同じくらい、なぜその変動が生じたのかについてきちんと分析することが大切です。要因は、本当に季節が絡むものもあれば、業界特有の慣習が原因となることもあります。 いずれの場合も、数値の動きの理由を徹底的に考えることが必要です。数値変動の原因がわかれば、新たなビジネスのヒントにもなるかもしれません。
あなたのビジネスには、どんな季節性がありますか?

おわりに

今回は、前年同期比比較の重要性(正確に言うと、月次や四半期など、適当な期間に分けた上での前年同期比比較の重要性)を見てきましたが、 これらの数値を把握するには「月次決算」や「四半期決算」の作業を定期的にこなす必要があります。
(当事務所が「年1回決算申告のみ」をお請けできない理由もここにあります。タイムリーに数値を追わないと、適切なコメントができないのです。)

月次決算などの作業をするには、顧問税理士などの外部専門家を入れつつ、効率よく作業をできるようにする仕組みづくりが大切です。
また、月次決算や四半期決算後の数値分析にあたっても、顧問税理士と考えてみるのも良いでしょう。数値を見慣れている税理士であれば、数値同士の因果関係を考える良い「壁打ち相手」になってくれるはずです。
これらの分析を駆使して、次のビジネスのヒントを探しに行きましょう。


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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