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減価償却費は魔法の経費か?

減価償却はキャッシュが流出しない費用?

個人事業主や会社を経営している方にとって、いかに支払う税金を減らすかは常に関心毎かと思われますが、 結構言われることが多いのが「減価償却費はキャッシュが流出しないすごい経費」だということ。
世の中で様々展開されている節税製品の中には、「減価償却費で利益を圧縮できます!」という話を大きなメリットとして挙げているものも少なくありません。 費用が計上できるのにキャッシュが流出しないなんて言われたら、まさに魔法の経費と言うべきものになるわけですが、減価償却費は本当に「魔法の経費」なのでしょうか?

確かに費用計上時にはキャッシュが流出しないが……

減価償却という言葉の意味についてはどこかの法律などで決まっているわけではないため、様々な方が独自の説明をされていますが、その趣旨については概ね一致しています。
ここでは国税庁HPの「減価償却のあらまし」から趣旨を見てみます。


国税庁「減価償却のあらまし」より

事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。
(中略) 減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものです。
(中略) 減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続です。


最後の行に記載してある通り、減価償却とは「減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続」になります。 ここでのポイントは、「減価償却資産の取得に要した金額」を「配分」していく手続だ、という点です。具体的な数値を見ていきましょう。

減価償却の処理例

減価償却の処理例として、事業年度の年初に1,200万円の普通自動車を購入した例で考えましょう。
減価償却は「一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく」わけなのですが、この方法については、法人税法や所得税法で細かく規定があります。
例えば、普通自動車であれば6年で費用を配分、軽自動車であれば4年で費用を配分と細かく決められています。また年ごとの配分割合も細かく規定があり、毎年同じ額を費用化したり、取得直後に多く費用化したり、様々な方法がありますが、 今回は説明の都合上、毎年同じ額を費用化する例で考えてみます。(つまり、1,200万円の自動車を購入し、6年間で定額費用配分する例を想定します。)

各年度の費用金額とキャッシュの動きを表現したのが下の図です。


この図の上段は経費(減価償却費)の計上額の動きを表現したものになります。1,200万円の自動車の費用を6年間で配分していくので各年度に200万円ずつの経費が計上されます。 一方、各年度末では実際には200万円のお金を支払っているわけではないので、キャッシュ支払額はゼロになります。この点でみれば確かに「減価償却費はキャッシュが流出しない魔法の経費」だと言えるかもしれません。

しかし、この図を見ればすぐにわかる通り、各年度末のキャッシュ支払額はゼロであったとしても、そもそも購入時に1,200万円ものキャッシュを支払っているわけです。
さらに言うと、6年間トータルで見れば、経費の計上額合計とキャッシュの支払額は一致します。そもそも減価償却は、ただの「費用配分」だからです。
むしろ、減価償却はこの例でいうところの1,200万円のキャッシュ支払を、全額費用化できずに将来の一定期間で配分することになるという、ある種、不利な経費計上方法なのです。

各期末時点の一時点を切り取るとキャッシュの流出無しで経費が計上されているように見えておトクな感じがしますが、説明のため、おトクなように見えるように都合よく時点を切り取っているに過ぎない、というのが本当のところです。

中古車節税の手法に注意

減価償却については、会計に詳しくない方にとってなじみのない概念ということもあって、節税アイデアを提案する人たちにとって格好の道具になっています。
そのため、「減価償却で節税」と聞いたらむしろ疑ってかかるくらいの方が良いことが多いです。
例えば、中古の高級外車を使った節税アイデアについて内容とその手法の危険なポイントを見てみます。


手元キャッシュに余裕のある法人の経営者の方などに、「中古の高級外車を買うと節税になる」という話を持ちかけてくる人がたまにいます。彼らの典型的な手法は以下の3点に集約されます。

大事な話なので結論を先に述べますが、上記のうち、下2つのポイントは脱税行為につながる行為ですので、絶対にやらないでください。
以下各ポイントについて解説します。

中古車を購入することが大事な理由

新車の自動車を購入した場合、減価償却のための期間は6年であることは既に記載しましたが、この期間については中古車の特例があります。
特例の内容は簡単に言うと、「中古車については、特定の計算式に沿って計算された、短縮された期間で費用配分することが認められている」というルールなのですが、この特例をうまく適用すると、減価償却期間を最短で2年にすることができます。 (概ね新車から4年経過以降の自動車については、特例計算の結果、減価償却期間が2年になります。)

しかも上記の特例に加えて、減価償却期間2年の資産について、「定率法」という減価償却方法(減価償却時の費用配分方法にはいくつかあります)を適用すると、1年目で全額費用計上することになる計算結果となります。

つまり、4年落ちの1,000万円の中古車を購入して「定率法」で減価償却を実施すると、その年に1,000万円全額が費用計上されることになります。
この中古車の特例自体についてはルール通りの正規の処理ですので、会社によっては有効活用できる場面もあるかもしれません。

中古車を1円で経営者個人に譲渡することが危険な理由

減価償却が終了した中古車は会計帳簿上の価値で1円の資産となります。そのため、経営者に1円で譲渡しても問題なさそうなものですが、これに関しては法人税法上の特別なルールがあります。
法人税法上、時価と比較してあまりにも低額で資産を譲渡した場合、その取引の利益計算においては、取引金額ではなく時価で利益を計算することになります。特に自動車は中古車市場で市場の価格がわかりやすいため、 この規定に抵触する危険性が高いと考えられます。

例えば、減価償却の終わった帳簿価格1円の高級外車(中古車時価600万円)を1円で譲渡した場合、簿価=取引金額なので利益0円、となるのではなく、帳簿価額1円のものを600万円で売った、とみなされて、 利益600万円が会社に計上されます。
ということで、この場合に誤った方法で処理していると600万円の利益隠しとして税務調査などで指摘されることになります。

転売して全額経営者のキャッシュにすることが危険な理由

さらに、1円で入手した中古自動車を転売するとなるとほぼ確実に利益が発生するため、所得税法上の「譲渡所得」として申告する必要があります。
通常のプライベート中古車の場合でも、購入価額から50万円以上値上がりした状態で売却すると「譲渡所得」として申告する必要がありますが、購入価格より売却価額が高いケースは一部のプレミアムカーに限られるかと思いますので、 通常のプライベートの自動車の買い替えで譲渡所得を気にする必要はありません。(逆に、普通の自動車の売却で譲渡所得が発生すること自体が異常ともいえます。)

いざ税務調査になればこのような「異常」な取引についても徹底して調べられることから、該当があればまず指摘されることになります。当然、譲渡所得を申告していないことが発覚したら脱税扱いです。 (中古車業者の側にも定期的に税務調査に入っているので、そこでの売上データなどから異常な取引を抽出しやすくなっています。)
実際、過去に税務調査で発覚したケースもよくあるようで、中には何台も法人から中古車を仕入れて転売していた経営者の例もあったようです。
これらは意図的な取引形態であるため、不正と認定され、追徴課税されるリスクは相当高いと考えられます。

おわりに

減価償却のような馴染みのない概念を使って説明されると、「なんだかすごそうな手法だな」と思いがちですが、一度冷静になって考えてみましょう。
結局のところ、「全然必要ないものに対してお金を出すという行為が間違っている」というところに尽きると思います。
中古車の手法もそうですが、ぱっと見で美味しそうな話が出てきたときは、一度落ち着いて、顧問税理士などにも相談してみましょう。


田崎会計事務所(田崎公認会計士・税理士事務所)
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